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2004年 12月 06日 ( 1 )


2004年 12月 06日

コメディ・ウイルスは時を越え場所を越え移動する

COMEDY at WAR〜戦時こそ笑い〜須田泰成

今年の6月に出版された翻訳本『ドイツ人のバカ笑い〜ジョークでたどる現代史〜』(集英社新書)を読んでいると、面白いことが書かれてあった。この本は、第二次世界大戦が終了した1945年から1999年までの半世紀余りにわたってドイツで語られたジョークを3人のジョークの達人たちが集めたもの。当然、どのジョークも世相をビビッドに反映する歴史の生きた証拠である。とはいえ、集められているジョーク自体は、これまでに読んできたジョーク本と比べて特に新鮮ということもない。しかし、本の中に相当ガツンとくる一文があった。その文章とは‥‥‥一九四七、八年ごろに西側占領地域では新種のジョークが出まわりはじめた。純然たるナンセンスを特徴とし、イギリスないしはアメリカに起源を持つものである。休暇で一時帰国した占領軍兵士が故国で仕入れ、西ドイツに輸入したのだった。というもの。
これは、つまり、戦争による兵隊の行き来にくっついて、まるでウイルスのようにジョークが移動したということを意味する。同書には、若い英米軍兵士が、ドイツの若い娘の尻を追っかけ回すジョークが多く紹介されているが、おそらく、若い英米軍兵士は、若い娘の関心を引くため、駐留軍生活の娯楽のためにジョークを披露しあったのだろう。そして、
そのジョークが生み出した笑い声がドイツの空に響き渡り、いつしか土地のジョークとして根付いていったと推測する。
戦争がきっかけとなって笑いが異文化に伝搬されるなんて、非常に興味深い話である。昔、
歴史の授業で、8世紀の唐とイスラム帝国の戦いをきっかけに中国からイスラム世界に紙の製法が伝わり、それがさらには西欧に伝わり、グーテンベルグの印刷術の発明に結びついたと習った記憶があるが、ジョークもまた国境を越えて、直接なんのつながりもない異国の人を笑わせてきたのだ。
ここまで書いてきて一つ思い出した話がある。中国のジョークと戦争の関係性である。中国でジョークが発達したのは、実は、紀元前の春秋戦国時代のこと。当時、全国制覇を狙う野心ギラギラの諸侯たちが大勢いたわけだが、同時に彼らに策を説いて重用してもらおうと目論む遊説家たちも大勢いた。話をして気に入られたら、場合によっては、いきなり宰相に大抜擢!ということもあったというから、みんな必死で気の荒い諸侯たちの気に入るように熱く語ったことは想像に難くない。そして、そこで用いられたのが、笑いだったという。いきなりお固い政策や戦術を論じるよりも、まずはジョークで恐れ多い雰囲気を解きほぐし、戦国の世を生きる諸侯の猜疑心に富んだ鋭い目付きと固まったばかりのマグマのような表情をナイス&ウェルカムなスマイルにして、それから、じわりと自分を売り込むという高等テクニックが遊説家業界では試みられたのだ。遊説家たちは、戦国の世を旅しながら、もともと巷で語られていたジョークを拾い集め、書物に記し、諸国で語り、ジョークを元々の産地から遠く離れた場所に植え付けた。そのようにして残された、たとえば有名な韓非子の『戦国策』などは、実は笑い話でいっぱい。後に日本に渡り、江戸小咄、さらには落語に影響を与えたものもあるというから、戦争と笑いの関係は、なんとも奥が深い。
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by yasunari_suda | 2004-12-06 17:17 | 戦争と笑い